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《マスターとカイトと小さい青空》
「今日も雨ですねぇ」
扉を開けた先に広がる空を見上げ、残念そうな声が呟いた。
数週間前に梅雨入りが発表された後、そんなに律儀にならなくてもと言いたくなるほど雨が続いている。じっとりと体に纏いつく割に肌寒いこの時季特有の空気は、毎年の事とはいえ本当に鬱陶しいな。
「ま、梅雨だからしょうがない」
「でも、こんなに毎日雨が降ると思いませんでした。お洗濯も外に干せないし、空は灰色ばっかりです。せっかくマスターとお出掛けなのに」
“お出掛け”と言っても、散歩がてら近所のスーパーに行くだけなのだが。
最近買った小鳥柄のエコバッグを手に、俺とは違う視点ながらこの天気を嘆く言葉に、ふと思い出す。
「そうだ、カイトに渡す物があった。ちょっと待ってろ」
「ふぇ?はい」
不思議そうに見上げてくる視線を背に受けながら、階段を上ると部屋のクローゼットの中を漁り、目当ての長細い包みを掴んで玄関へ戻った。
「ほら、これカイト用」
「オレ用?・・・あっ、カサ!」
「前に買ってやるって言ってたろ。遅くなって悪かったな」
梅雨入り前、今日と同じように二人で散歩に行った際に話題になって買った、カイト用の傘。すぐに渡すつもりだったんだが、あの後色々と(主に俺の心情が)ゴタゴタしていて忘れていた。
「あの、あの、開いて良いですか?」
「当たり前だろ。これからそれ使うんだから」
そわそわと落ち着かない様子で、自分の手の中の傘と俺の顔を交互に見るカイト。
子供みたいな姿に苦笑しながら軽く頭を叩いてやると、青い爪先が慎重に留め紐を外してゆっくりと傘を開き・・・
「わぁっ・・・すごい!」
無地の表とは正反対に鮮やかな青空が広がる内張りに、驚きに見開かれた瞳が嬉しそうに細められる。
「気に入ったか?」
「はいっ。だって、この傘の中ならいつもお天気です!ふふっ。ありがとうございます、マスター」
「どういたしまして」
重く垂れこめた雲の下。切り取られた青空を背負った笑顔に笑い返しながら、俺は空の色に馴染む青い髪をクシャクシャと掻き回した。
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《カイトとシャンプー》
長い指が、引っかからないように優しくオレの髪を梳いていく。ふわふわに立てられた泡の中で頭を丁寧に刺激していく手の動きにうっとりして、何だか瞼がくっついちゃいそう。
今日は、前から練習してた歌が上手く歌えるようになったご褒美に、マスターに頭を洗ってもらってるんだ。
「本当に安上がりなご褒美だな、カイトは。たまには他の物ねだっても良いんだぞ?例えば、ハーゲン○ッツとか」
「だって高いアイスも好きだけど、マスターに頭を洗ってもらうのはもっと好きなんです。・・・あんまりこればっかりお願いしたら、ダメですか?」
「いや、お前が遠慮してるんじゃないなら全然構わないけど。それに、髪にしたって手入れはしとくに越した事ないからな」
基本的に人間より丈夫に出来ているボーカロイドだけど、髪とか爪みたいに硬いところは、一度元の形から欠けてしまうと再生に時間がかかるんだ。
ボーカロイドがマニキュアを塗っているのも爪の保護のためだし、髪だって傷んでも人間みたいに生え変わらないから切ってしまうしかない。・・・切っても伸びるのにすごく時間が掛かるから、メンテナンスセンターで直してもらった方が早いんだけど。
「マスターって、頭洗うのが本当に上手ですよね。今までも他の人の頭、いっぱい洗ったんですか?」
「ははっ、何だそれ。お前が気に入ってくれてるのは嬉しいけど、自分以外の頭なんてカイトのしか洗わないぞ?」
「えっ、本当ですか!?」
初めてマスターに頭を洗ってもらった時からすごく気持ち良かったから、きっと今までにもやった事あるんだと思ってたのに。
「俺は兄弟とかいないから、機会が無かったし。・・・なんでそんな顔してる?」
「えへへ・・・だってこんなに気持ちいいのに、それを知ってるのがオレだけって思ったら、何だかとっても幸せだなぁって」
すごく“トクベツ”な感じがして、誰かに自慢したいみたいな、だけど誰にも内緒にしておきたいような、そわそわした感じ。そんな胸の中につられたみたいに顔が勝手に笑っちゃうと、一瞬驚いたように目を見開いたマスターは
「・・・そか。ほら、流すから目ぇ瞑れ」
「はーい」
いつもより低い声は、たぶん照れてるから。
泡だらけの手で頭を押し下げられる前に見えた赤い耳に、こういう時のマスターってやっぱり可愛いと思いながら、シャワーと一緒に髪を梳く優しい指を目を閉じて受け入れた。
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※〈カイトと、しおれたお兄様〉の後の話です
《お兄様の小さなマスター》
日暮れの早い冬。気がつけば明かりの無い部屋はすっかり暗くなっていた。
「・・ん・・美咲、帰ってたのか?・・・あれ、カイトは?」
「帰った」
いつも落ち着いた声が言い切る一言に、今は拗ねたような響きを帯びている事に気づき、明斗は薄闇の中で自分を見下ろす顔を見つめる。
「どうした?」
「あの人なに?付き合ってるの?」
「付き合うって・・・んな訳ないだろ。まぁ可愛い奴ではあるけど、弟みたいなもんだし。あいつにはちゃんと相手がいるよ。ほら、あいつがセンセイんとこの“カイト”」
「千代先生の?・・・じゃあなんで、明斗に膝枕してたの?」
不機嫌そうに何度も訊かれ、細い脚から頭を上げながら苦笑してしまった。
今の明斗が一番大切にしている少女は、外見も中身も年の割には大人びているが、それでもまだ小学生だ。自分の心情をそのまま話す訳にもいかないだろう。
「ちょっと、な。おれが凹んでるみたいだって、慰めてくれたんだよ」
「何かあったの?・・・ああ、お姉のことか」
「っ!? 美咲、なんで・・・」
図星を指されて思わず返事に詰まる。彼女は、明斗と姉との関係など知らない筈だ。何故、明斗が落ち込む理由が姉の懐妊だと気付いたのだろうか?
少女はそんな明斗の様子に小さく笑うと
「ふふっ、明斗ってば変な顔!何でって?分かるに決まってるじゃない。私が何年、明斗のこと見てると思ってるの?」
「おれ・・・何かおかしかったか?」
好きな人の望みが叶って嬉しいと、確かに思っている筈なのに・・・その裏に、それを祝えない気持ちが残っている気がして、その幸せを心から祝福出来ているのかどうか、自分自身が信じられない。
「大丈夫。ちゃんと嬉しそうに、おめでとうって言ってたよ。お父さんもお母さんも、お姉だって何も気付いてない。・・・言ったでしょ?私はずっと明斗のこと、見てきたって」
暗さを増した部屋の中。僅かに漏れ入る階下の明かりで辛うじて分かる整った容貌が、子供らしからぬ艶然とした笑みを浮かべると
「せっかく一番近くにいて、一番好きでいてもらったくせに・・・自分から置いていくなんて、お姉はバカだね。だから私がもらっちゃうの。いいでしょ?明斗」
「・・・みさき・・?」
「もうすぐご飯の時間だよ。早く降りておいで」
言いながらひょこりとベッドを飛び降り、長い黒髪を翻して部屋を出ていく後ろ姿を、明斗は呆気にとられたように見つめる事しか出来なかった。
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